将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2010年4月 5日 (月)

わが弟子・櫛田陽一六段と「真剣師」小池重明のこと

1980年代前半、アマ名人戦で2年連続優勝した小池重明がアマ棋界のヒーローでした。小池はプロ棋士キラーとしても知られ、ある将棋雑誌で企画されたA級棋士との平手戦に勝つと、棋界内外で大いに注目されました。「真剣師」(賭け将棋を生業にする人)の顔も持ち、名だたるアマ強豪との真剣デスマッチは語り草になっています。

その小池に心酔した1人の少年がいました。17歳のときに支部名人戦で全国優勝した、わが弟子・櫛田陽一六段でした。小池の将棋人生に憧れていた櫛田は、将棋少年の多くがプロをめざす中で、断固としてアマにこだわりました。

やがて櫛田は将棋雑誌の企画で、全国のアマ強豪たちと対戦して激しい勝負を繰り広げ、あまりの強さから「グッシー」という異名がつけられました。また、プロに対しては強い対抗心を持ち、時には挑発的な言葉を放ちました。さながら風雲児のような存在でした。

28年前の1982年、私は自宅で内田昭吉、下村竜正、金子タカシ、白井康彦、南尚文らのアマ強豪・大学将棋部員と一緒に研究会を開きました。当時、プロ・アマ混合の研究会はかなり珍しく、アマ棋界の重鎮だった関則可(元アマ名人)もいちど様子を見にきました。将棋の研究に打ち込んでA級昇級をめざしていた私は、強くなりたい一心でアマとも指したのです。その研究会に途中から参加したのが櫛田でした。

翌年の83年、小池が寸借詐欺をした事件が新聞で報じられました。小池は酒・ギャンブルに明け暮れてかなり荒れた生活を送り、金に困った末に金銭トラブルに至ったのです。私は、定職に就いてなかった櫛田のことがふと気になりました。小池の二の舞を心配したのです。そこで奨励会受験を勧めました。

櫛田は当初、頑なに拒否しました。しかし私の強い説得に応じて、奨励会受験をついに決意しました。受験年齢としてぎりぎりの18歳のときでした。私と櫛田は、それが縁で師弟関係になりました。

櫛田は奨励会に1級で入会し、3年半後の87年に四段に昇段しました。そして88年に全日本プロトーナメント準優勝、90年にNHK杯戦優勝など、師匠をしのぐ素晴らしい実績を挙げました。ところがその後、それまで将棋一筋で生きてきた反動なのか、遊びに興じて生活が乱れてしまい、将棋の成績が低迷しました。95年にはフリークラスに転出しました。

近年の櫛田は、将棋に打ち込んで頑張っています。フリークラス棋士として現役期限があと2年と迫っていますが、私は「タイトルを取れば状況は変わる」と激励しています。

今年の「親子将棋教室」で、九州(大分・佐賀)へ櫛田と同行しました。じつは入門から30年近くなるのに、師弟での初めての旅行でした。旅先の居酒屋では、お酒を飲みながら来し方行く末をしみじみと語り合いました。とにかく今の櫛田には、対局で活躍することを願うばかりです。※文中敬称略。

次回は、名人戦(羽生―三浦)第1局の前夜祭。

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コメント

櫛田六段の四間飛車は最高です。観ててすごく勉強になるし、面白い。プロの中で一番魅せる振り飛車だと思ってます。

投稿: 通りすがり | 2010年4月 6日 (火) 00時26分

  将棋の世界の人間的な部分を拝見したようで、感じ入りました。
 
  櫛田先生頑張れ!田丸先生頑張れ!

投稿: 五平餅 | 2010年4月 6日 (火) 14時11分

櫛田六段は僕のもっとも尊敬するプロ棋士です。現代の将棋に櫛田さん以上に1手1手にドラマを作れるプロ棋士はいません。

投稿: 4枚落ち | 2011年2月 8日 (火) 12時00分

自分は四間飛車が好きで、将棋を指す時はいつも四間飛車ばかりしています。
なかなか男性プロ棋士で四間飛車を指される棋士の方が おられないので
普段はよく女流棋士の対局を観て勉強していました。

最近、櫛田先生が 番組で講座をやられてるので 1話からずっと録画しています。

自分は頭が良くないので 一度観ただけでは覚えられないので何度もくりかえしくりかえし観て 頭に叩き込むように 頑張っています。

櫛田先生の講座は、本当に勉強になり実際に今まで圧勝されていた居飛車党の
方に まだ勝ててはいないのですが相手に詰めろをかけれる所までいける様になりました。^-^

今では 次話を楽しみにする毎日です。

これからもずっと応援しています。

投稿: 四間飛車onry | 2011年11月29日 (火) 03時27分

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