「さばきのアーティスト」の久保が羽生に快勝した王将戦第3局
写真は、2月10日〜11日に静岡・掛川で行われた王将戦(羽生善治王将―久保利明棋王)第3局の対局光景。立会人の私が、羽生の着手に合わせて控室のモニター画面を撮ったものです。
私は同じカードだった2年前の王将戦でも立会人を務めました。羽生は別に変わりありませんが、久保は前回と比べて落ち着きが感じられました。所作がゆったりしていて、苦手という和服の着付けも様になっています。昨年の棋王戦で念願の初タイトルを獲得したことで、風格と余裕が出てきたのでしょう。
久保はこの対局の2日前の8日、B級1組順位戦の対局に勝ってA級昇級を決めました。もし負けたら昇級の一戦は3月12日の最終戦に持ち越され、3月10日〜11日に和歌山・白浜で行われる王将戦第5局の何と翌日なのです。当日の朝8時に出発すれば、大阪・福島の関西本部での対局に間に合いますが、心身両面でかなり負担が生じます。
タイトル戦の関係で、当事者の順位戦の対局日程が変わることはあります。ただ昇級や降級に影響を及ぼす最終戦は、同日対局が絶対の原則です。しかし久保は先にA級昇級を決め、安堵して王将戦第3局に臨みました。
近年のタイトル戦は、対局者や対局室の様子が固定カメラで映し出され、ネット中継で全国に配信されます。対局者は一挙手一投足を見られるわけですが、そんなことを気にしていたら将棋は指せません。とくに羽生は慣れたもので、合間におやつのケーキをぱくついたり、時にはあくびをして、適当にリラックスしています。
固定カメラの数メートル先にはガラス戸を隔てて通路があり、関係者が出入りしたりカメラマンがそっと撮ったりしますが、盤面に集中している対局者はいちいち見ません。その羽生が「ギョツ」と驚くような表情と仕草を見せたことがありました。私たちはいったい何かと訝ると、ある棋士が控室に顔を見せました。昨年の王将戦で羽生と第7局まで激闘した深浦康市王位です。深浦は別件で来ていました。それにしても、深浦が通ったときに羽生が目を向けたのは、タイトル保持者の「殺気」を感じたのかもしれません。
羽生―久保戦は相振り飛車の戦型。久保が三間飛車から石田流の陣形に組むと、羽生は金銀4枚の矢倉囲いで守りを固めました。すると久保は相手玉をじかに攻めず、逆サイドに飛角銀を転換する意表をつく指し方を採りました。そして中盤で銀捨ての強手を放って攻め込み、羽生の頑強な抵抗を打ち破って快勝しました。最終盤で「羽生マジック」を思わせる手が出て、控室は一瞬騒然となりましたが、久保は冷静に勝ちを読み切りました。
本局は「さばきのアーティスト」といわれる久保の本領が発揮された将棋でした。しかし指し方が華麗だけでなく、随所に粘りと渋さが見られ、じつに勝負強いと思いました。次の王将戦第4局は本日の18日に勝負がつきます。
次回は、田丸が四段昇段を決めた東西決戦の対局。
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