将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2010年1月14日 (木)

ジャズピアニストの吉澤はじめさんが早水千紗女流二段に二枚落ちで快勝

吉澤アマと早水女流の二枚落ち戦
囲碁・将棋チャンネル「お好み将棋道場」の番組で、ジャズピアニストの吉澤はじめさんが早水千紗女流二段と二枚落ちの手合いで対戦し、私が解説を務めました。

吉澤さんはライブ演奏のほかに、音楽プロデュース、CM音楽作曲(森永カフェラテ、ニコンカメラなど)の活動をしています。私が主催した昨年秋の「将棋とお酒を楽しむ異業種交流会」では俳優の森本レオさんと指し、私が見たところ初段ぐらいの棋力でした。

吉澤さんの将棋番組出演は、私が推薦したものです。そこで対局前に特訓しました。アマ初段が女流プロに二枚落ちで勝つことは容易ではありません。上手(うわて・駒を落とす側)は攻め駒の飛車角はなくても金銀の守備が強いので、下手(したて・駒を落とされる側)はなかなか攻めきれず、いつのまにか押さえ込まれて完封されるのがよくあるパターンです。私との練習将棋でも、そんな結果となりました。

二枚落ちには「二歩突っきり」と「銀多伝」の定跡があります。しかし普段は平手ばかり指している人が、にわか仕込みで定跡を覚えて用いてもうまくいきません。何しろ上手は定跡の表も裏も知っているからです。

私は吉澤さんに対して、ある作戦を指南しました。吉澤さんが好む指し方をアレンジしたものです。それが写真の下手の陣形で「銀冠」という囲いです。まず守りを優先させ、早めに▲7八銀から▲8七銀と上げて上部を守ります。これによって、上手の金が五段目に出てきても▲7六歩で追えます。そして攻めでは▲4六銀と進め、▲3五銀から▲2四歩の2筋攻撃、▲5五歩の5筋攻撃を併用します。

写真の局面で、ポイントは上手の3筋の銀の動きです。△2二銀と2筋を守れば▲5五歩で5筋を攻め、△4二銀上で5筋を守れば▲3五銀で2筋を攻めます。実戦は▲3五銀△2二銀▲4六歩と進みました。この▲4六歩が好手で、次に▲4五歩と伸ばして▲4四歩△同歩▲同銀△同銀▲同角と銀交換する狙い。この攻め方も私が教えました。

じつは対局前、私が早水さんにこの作戦を伝えて応じてほしいと頼むと、了解してくれました。ただ研究と実戦はまったく別物です。上手はいろいろな策で下手を惑わします。早水―吉澤戦もそんな展開となりました。しかし下手は冷静に対処し、有利を着々と拡大していきました。そして「下手はいつか間違えるだろう」という私の予想は外れ、吉澤さんは早水女流に見事に快勝しました。

アマがテレビ対局でプロと指す場合、かなり強い人でも緊張して実力を発揮できないものです。しかし吉澤さんは「不思議なことに、とても集中することができました」とブログで語っていました。日頃のライブ活動などで精神的に鍛えられていたようです。

写真の下手の作戦はとても有効だと思います。二枚落ちで習っている方はぜひ試してみてください。

次回は、本年最初の対局について。

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コメント

田丸先生
このたびは本当にお世話になりました。
プロの先生と、ましてやテレビ対局など、少なくとも10年以上先のことと思っていました。
頼りない私の背中を押してくださり、
本当にありがとうございます!

対局後の打ち上げで、早水先生まで加わってくださり、
楽しく呑んだワインの味はずっと記憶に残ることでしょう。

今後も精進を怠らずに頑張りますので、
どうぞよろしくお願いいたします。

投稿: 吉澤 | 2010年1月15日 (金) 07時45分

田丸先生
こんにちは、はじめまして、田丸先生ファンの将棋好きの青年(中年?)でございます。
田丸先生のお言葉としては、先生がかつて将棋誌にて紹介された「量を突き抜け 質に至れ」が印象的です(間違っていたらごめんなさい)。
先生の指し手としては、勝浦先生の振飛車に舟囲い早仕掛けで応戦され、中盤で自陣を固めた「5二銀打ち」が印象に残っております。
ご著書も「将棋界の事件簿」他、いくつか所有しております。
本ブログ、大変楽しみに拝読させていただいております。
本年も素晴らしい1年でありますよう、お祈り申し上げます。
ジロウ

投稿: ジロウ | 2010年1月15日 (金) 14時37分

田丸先生の著書“振り飛車破りユニーク戦法”を持っているのですが、それにまつわる話を一つ。僭越ながら自分は振り飛車党なのですが、相振り飛車は嫌いで指さないのです。相手が飛車を振れば喜んで譲ります。友人とのある対局で先手番の友人は藤井システム風に進めてきました。自分は藤井システムが好きでいつも友人に対して指していたのですが、それを逆にぶつけられたのです。その時、田丸先生の著者で載っていたポンポン桂を思い出し、思い切ってぶつけた所快勝!そのときは良かったのですが、その後その友人はポンポン桂を略奪(笑)し私を苦しめるのです…プロ同士でこの戦法を決めるのは容易ならざるとは思いますが、私達の中では必勝裏定跡になっています。長文失礼致しました。

投稿: ケイ | 2010年1月16日 (土) 22時33分

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