将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2009年11月 2日 (月)

タイトル戦で起きた飛行機Uターン、封じ手時刻、扇子の音などのトラブル

今回のテーマは、タイトル戦で起きたトラブル。ただタイトル戦に登場する棋士たちはみんな紳士的なので、そうした事態はきわめて少ない。

1994年の王将戦(谷川浩司王将―中原誠前名人)第5局は2月下旬に青森・三沢で行われた。ところが対局者や関係者が対局前日に搭乗した飛行機が、大雪のために三沢空港に着陸できず、羽田空港に引き返した。翌日、三沢にやっと到着した。

そして関係者で協議した結果、第5局は通常の持ち時間・8時間の2日制ではなく、持ち時間・5時間の1日制に短縮することに決まった。日程を延ばすと2日目が土曜日で、対局場のホテルが満室という事情もあったようだ。王将戦は1月から3月にかけて冬に行われる。こうした気象による不測の事態はありうることだ。その後、王将戦は雪国での対局が少なくなった。

1996年の名人戦(羽生善治名人―森内俊之八段)第1局の1日目の夕方、「封じ手」をめぐって問題が起きた。封じ手時刻の5時半、立会人が「封じ手の時間になりました」と手番の森内に声をかけると、森内が「指すつもりなんですけど」と言って指した。記録席にある時計と森内の時計は、秒針が少しずれていたようだ。結局、森内の指し手は認められ、羽生が封じ手をした。翌日、立会人は「記録係の時計が公式の時刻を示す」と両対局者に伝えた。

2日制のタイトル戦では、1日目の封じ手時刻に手番の対局者の指し手は封筒に密封され、翌日の対局開始時に開封される。封じ手をしないと、手番側が翌朝まで考えることができる。また封じ手を明らかにすると、相手側に同じメリットが生じる。森内はこの名人戦でタイトル戦に初登場した。森内は慣れない封じ手をしたくなかったのかと、関係者は推測した。

2007年の名人戦(森内俊之名人―郷田真隆九段)第1局の1日目。考慮中の森内が相手の郷田に向かって、「自分の手番のときに扇子の音を立てるのは控えてほしい」とじかに掛け合った。森内は郷田が立てる扇子の音を、対局開始時から気になっていたようだ。森内の要望に対して、郷田はいったん了承した。しかし郷田は、扇子の音は許容範囲ではないかと思い直した。その10分後、立会人を含めて話し合いをしたいと申し出た。

そこで立会人は記録係の時計を止め、別室で対局者、立会人、関係者らで協議した。前代未聞の事態だ。そして協議の結果、森内の手番のとき、郷田は扇子の音に配慮する、ということで決着した。対局は30分後に再開された。森内は興奮して鼻血が出たのか、鼻にティッシュペーパーを詰めていた。翌日の2日目、郷田の手元には扇子がなかったという。

今回のトラブル例に、森内が2回も出てしまったが、普段の森内はいたって常識人である。後者のケースは、対局に打ち込みたいための言動だろう。次回も、対局でのトラブルについて。

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コメント

タイトル戦での出来事、反則等、今まで知らなかったことが良くわかりました。
色々な将棋の本が出ていますが、こういうことをもっと知りたかったのです。
将棋がより身近に感じられます。
田丸さんの文章も読みやすくて大好きです。
毎週月曜日と木曜日が楽しみです。

投稿: 穂高 | 2009年11月 2日 (月) 08時17分

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