菅直人さんが田中秀征さんと厚生大臣室で将棋
1996年7月。私は将棋連盟の関係者と一緒に厚生省を訪れ、厚生大臣の菅直人さん(現・副総理)に将棋の免状を贈呈する場に同席しました。経済企画庁長官の田中秀征さん(現・政治評論家)もお祝いに駆けつけました。菅さんと田中さんは当時、自民党・社会党と連立政権を組んだ「新党さきがけ」に所属し、橋本内閣で初入閣しました。
その菅さんと田中さんは将棋の好敵手で、一時期は暇さえあれば指しました。当初は菅さんの勝ち越しでしたが、途中から負けが込んできました。田中さんの将棋は型破りで荒っぽく、少しでも甘い手を指すと付け込んでくるそうです。
田中さんは棋歴が長く、大学時代は渋谷の将棋道場に通いました。少年時代の中原誠(十六世名人)が受付をしていたそうです。94年に将棋雑誌で女流棋士と対談すると、連盟から三段免状を贈られました。そのとき「棋友の菅さんにも免状を上げてほしい」と頼み、それが2年後に実現したのです。なお私は、田中さんと同じ長野県生まれのよしみで懇意にしています。
菅さんへの免状は三段の予定でしたが、本人が田中さんに遠慮して二段になりました。厚生大臣室での免状贈呈式が終わると、菅さんと田中さんは大臣室のテーブルで将棋を指し始めました。写真がその対局光景。右が菅さん、左が田中さん、中が田丸です。
戦型は角換わり腰掛け銀で、かなり本格的な将棋でした。両者は猛烈な早指しでしたが、手筋を連発し合う素晴らしい内容で、観戦した私たちは大いに感心しました。著名人に贈る免状の段位は、大半が名誉的なものです。でも菅さんと田中さんの場合、実力どおりといえるでしょう。
菅さんと田中さんの将棋は、15分ほどでお開きになりました。菅さんは対局中、笑みをずっと浮かべて楽しそうに指していました。じつは当時、厚生大臣として薬害エイズやO―157の問題で厳しい立場にあり、記者会見では苦渋に満ちた表情を見せていました。それだけに、気のおけない棋友との将棋は、つかの間のオアシスとなったのでしょう。
菅さんは田中さんのことを、「20年来の盟友で、政界の『孔明』として尊敬しています」と語っていました。しかし厚生大臣室での将棋から3ヵ月後の総選挙で、両者の立場は一変しました。当選した菅さんは旗揚げされた民主党の幹部に就任、落選した田中さんは政治評論家に転身しました。その後、将棋は指したのでしょうか…。
次回は、以前の「穂高」さんのコメントについて。
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