豪快な「反則手」で注目された石橋幸緒女流王位の次の対局で、立会人として見た石橋の意外な様子
先週の21日に女流王位戦(石橋幸緒女流王位―清水市代二冠)第3局が福岡県飯塚市で行われ、私は立会人を務めた。
石橋は第2局の終盤で、六段目の角が四段目の自分の歩を飛び越えて敵陣の二段目に成り込むという、前代未聞の豪快な「反則手」によって勝ち将棋を落とした。その一件は新聞・テレビで報道され、石橋は全国的に注目された。それから1週間後の対局なので、私だけでなく関係者たちは、腫れ物を触るように石橋を見守っていた。
20日の前夜祭で主催者代表は、「昨年も当地で対局が行われました。あのときは地元出身の麻生総理誕生で大いに沸いていました。でも1年後には政権交代で退陣しました。政治の世界では一寸先は闇と言いますが、まさにそのとおりでした。将棋でも思いも寄らないことが起きるものですね…」と挨拶した。具体的なことは語らなかったが、やはりあの一件を示唆した。
そして当の石橋が登壇すると、「あの対局によって、一躍有名になりました」と反則について明るく語った。これで会場は一瞬のうちに和んだ空気となった。石橋はその後も自分から進んで反則の話題に触れ、私にも「ブログ(19日更新記事)を見ましたよ」と話しかけてきた。関係者との宴席では、大好きなプロ野球の話に花を咲かせた。ちなみに横浜ベイスターズのファンで、横浜球場で始球式を務めたこともある。
石橋は第2局の反則負けで大きなショックを受けたはずだが、外見は意外にもあっけらかんとした様子だった。
第3局は横歩取りの戦型で、飛車角が中段で乱舞する派手な展開となった。石橋は前局の後遺症もなく、積極的に攻めて押し気味に進めた。しかし清水は頑強に受けて容易に腰を割らない。そして大熱戦の末に、清水が競り勝った。
私は女流タイトル戦の立会人を初めて務めたが、女流トップのレベルの高さに驚いた。両者は1分将棋の秒読みでも、じつに正確に読んでいた。感想戦で青野照市九段がある有力手を指摘したとき、両者は暗に疑問に思ったのか、黙って盤上で以後の指し手を示した。すると青野のほうが口をつぐんでしまった…。女流棋士の強さを物語る印象的な光景だった。
じつは、清水と石橋は師弟関係にある。その両者は女流タイトル戦で、これまでに7回も対戦した。戦績は師匠の清水が4勝3敗。8回目の対戦となった今期女流王位戦は、清水が2勝1敗と勝ち越し、タイトル奪取に王手をかけた。それにしても個人競技において、師弟同士が大舞台で戦って切磋琢磨するというのは、世界的にもあまり例がないと思う。
次回テーマは、立会人の仕事について。
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