将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2009年10月 8日 (木)

弟子との対局でまたも「恩返し」された師匠の私

将棋界と相撲界は、ともに日本の伝統的競技として、何かとよく比較された。確かに、勝負の形式や用語には、共通点がいくつかある。

棋界と角界、棋士と力士、四角い盤面と丸い土俵、一対一の男の勝負、順位戦と番付、指し手と差し手、待ったなし、寄せと寄り切り、名人と横綱、など。

しかし、決定的に違う点がある。大相撲では同じ部屋の力士同士の対戦は絶対にないが、将棋の公式戦では同じ一門の棋士同士の対戦は珍しくない。それどころか、師匠と弟子が対戦することもある。現役を引退して親方となる相撲界と違って、将棋界では師匠が現役を続けながら弟子育成をするのだ。

私は今年9月、ケーブルテレビ・スカイパーフェクTVで放送される「囲碁・将棋チャンネル」が主催する「銀河戦」で、弟子の櫛田陽一六段と対戦した。組合わせは抽選で決められるため、このようなカードが偶然に生じたのだ。

弟子と対戦する師匠の気持ちは複雑だ。年長の師匠に弟子が負けるようでは「こいつは大丈夫なのか」と心配になるし、師匠が負ければ同じ勝負師として純粋に悔しい。なお将棋界では、弟子が師匠に勝つことを「恩返し」するという。つまり、師匠に育ててもらって強くなった証しを実際に示したというわけだ。

私は櫛田との対局で、師弟という関係を超えてひたすら盤面に集中した。中盤では有利な形勢となったが、見落としがあって一気に形勢が悪化した。結果は櫛田が勝った。師弟戦の指しにくさというよりも、櫛田が強かったことにほかならない。

じつは16年前にも、NHK杯戦でベスト8進出をかけて櫛田と対戦し、やはり負けたことがある。「恩を返された」のはこれで2度目となった。今度は「恩知らずのやつだ」と言いたいものだ。

次回テーマは、私が所属する佐瀬一門の弟子たちについて。

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コメント

  田丸先生の書かれる物はいつも面白いですね。
 いままでも本や随筆を拝見した事があります。
 ブログを開設されたのですね。私も将棋界通になれそうです。

投稿: 五平餅 | 2009年10月11日 (日) 21時41分

独特な将棋の世界についてわかりやすく書かれており、
とても楽しませて頂きました。
将棋のことは全くわからないのですが、
親しみやすく、興味が持てそうです。

投稿: ブロッコリー | 2009年10月11日 (日) 22時44分

師匠であろうと、同門であろうと、対等に指せるのは公平で良いですね。
既にAクラスに昇級が決まっている田丸さんが、負ければ降級する人と最終戦で対局し、勝ったことがあったような・・・
さすがはプロだなと思った出来事でした。
いつか詳しく書いてください。

投稿: 穂高 | 2009年10月15日 (木) 19時24分

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