将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2009年10月 1日 (木)

竜王戦は秋の将棋界の大イベントだ!

渡辺明竜王に森内俊之九段が挑戦する第22期竜王戦七番勝負が10月中旬から始まる。対局場は第1局が滋賀『比叡山延暦寺』、第3局が京都『東本願寺』と、今期は歴史のある寺院で2局行われる。秋の将棋界の大イベントである竜王戦にぜひ注目してほしい。

渡辺竜王に羽生善治名人が挑戦した昨年の第21期は、将棋界初のどんでん返しが起きて大きな話題になった。羽生が3連勝して竜王奪取まであと1勝と迫ったが、渡辺が驚異的な頑張りを発揮して何と4連勝、大逆転防衛を果たしたのだ。囲碁のタイトル戦やプロ野球の日本シリーズで3連敗4連勝のケースは何度かあったが、将棋のタイトル戦では初めてのことだった。

中でも私が印象的なのは第4局だ。形勢不利の渡辺は「殺すなら、さあ殺せ」と開き直ったように、玉がほぼ丸裸の形で中段に逃げ出すと、羽生が寄せの決め手を逃して敗れた。渡辺にとってこの勝利は、主催者や将棋ファンに対して「最低限の責任を果たした」という意味で大きかったと思う。勝敗が0-4でも3-4でも負けに変わりはないが、対局者(とりわけタイトル保持者)にとってやはり違うのだ。

昨年の竜王戦では、渡辺が勝てば竜王連続5期、羽生が勝てば竜王通算7期となり、どちらも規定によって、「永世竜王」の称号を取得できた。じつは羽生が勝って永世竜王になった場合、羽生は「永世七冠」という途方もない大記録も達成できたのだ。

将棋界のタイトルは、竜王・名人・王将・王位・棋聖・棋王・王座など7棋戦ある。羽生は1996年2月、これらの7タイトルを1年間ですべて獲得したことがある。達成した翌日、一般紙・スポーツ紙の朝刊1面には「羽生七冠」の文字が大きく載ったものだ。テニスにたとえれば、年間の世界4大大会(全豪・全仏・全英・全米)で優勝する「年間グランドスラム」に値する。これは、現在最強と言われるフェデラー選手でもまだ達成していない。

羽生の「永世七冠」は、その上をいく大記録だ。タイトル戦で優勝回数を重ねると、永世竜王・永世名人・名誉王座などの称号を取得できる(通算10期・通算5期・連続5期など、条件は棋戦によって違う)。羽生は昨年の竜王戦で渡辺に挑戦した時点で、竜王戦以外で永世六冠をすでに達成していた。しかし渡辺に逆転防衛され、今期竜王戦でも準決勝で森内に敗れたので、永世七冠の達成は来年以降に持ち越された。

昨年、数多くの名曲を残した作曲家の故・遠藤実が「国民栄誉賞」を受賞した。じつは羽生が永世七冠を達成していたら、同時受賞の話が水面下で進んでいたという。それほど大記録だということを理解していただけただろうか。

今回から新しく始まったこのブログ。最初は説明調になってしまったが、将棋界の裏話や棋士の本音などを、回を追って伝えることにする。次回テーマは、竜王戦の成り立ちと賞金について。

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