将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2009年10月29日 (木)

タイトル戦の立会人は重要な職務だが、退屈になるほど平穏なのが望ましい

「立会人はどんな仕事をするのですか」という『五平餅』さんのコメントがあったので、それを簡単に説明しよう。

タイトル戦では2人の棋士が「立会人」として対局を見届ける。正立会人はベテラン棋士、副立会人は中堅棋士か若手棋士という組み合わせが一般的。前者は対局全般の進行を仕切り、後者は担当記者に戦況を伝えたり大盤速報会で解説する。日程は地方での2日制タイトル戦だと、往復の移動日を含めて4日間にわたる。正立会人の場合、次のような仕事がある。

空港や駅で対局者・関係者と待ち合わせて対局場に向かう。一同で対局室を下見して盤駒や照明などを検分。前夜祭で主催者や地元関係者と交歓。1日目の9時に対局開始を宣言。取材陣の要請に応じて対局撮影を許可。控室で担当記者に戦況を随時説明。1日目の夕方に対局者に「封じ手」時刻を伝える。対局者の封じ手2通のうち1通を預かる。2日目の開始時に封じ手を開封して指し手を示す。控室で白熱する戦いを検討。終局後の感想戦に同席して適当な時間に終える。打ち上げの宴席で両対局者の間に座って歓談。対局翌日に一同で帰参。

このように列記すると、立会人の仕事は過密に思えるかもしれない。しかし節目の責務さえ果たせば、あとは時間的に自由だ。対局室にずっといる必要もない。1日目は長考が続いて局面に動きが少ないので、私は自室で昼寝したり散歩する。控室で囲碁や麻雀に興じてもよく、温泉に入るのも楽しみだ。ただし、対局中の時間に飲酒はご法度。

タイトル戦の対局場は、地方都市のホテル、観光地の温泉旅館、歴史的な寺院など様々である。今月21日、私は福岡県飯塚市で行われた女流王位戦第3局の立会人を務めた。その対局場は、明治から大正の時代に「炭鉱王」と呼ばれた大資産家の伊藤伝右衛門の本邸で、明治天皇の系統につながる美貌の歌人・柳原白蓮が嫁いだことで知られる。写真は、対局室と庭園の光景。言葉ではうまく表現できないが、贅を尽くした造りや調度が随所に見られた。

091021_121746_m

091021_090904_yoko

白蓮はこの豪壮な屋敷で、25歳年上の伊藤伝右衛門と10年ほど暮らした。しかし「籠の鳥」生活や妻妾同居に嫌気が差し、7歳年下の帝大生と恋に落ちた。そして、白蓮が新聞紙上で夫に絶縁状を突き付けるという大スキャンダルに進展した…。

タイトル戦の立会人は重要な職務を担っており、何か問題が生じた場合は最高責任者として対処する。ただタイトル戦に登場する現代の棋士たちはみんな紳士的なので、そんな事態はめったに起きない。立会人が退屈になるほど平穏なのが望ましい。しかし、昔はいろいろなトラブルがあった。

次回は、タイトル戦で生じたトラブルについて。

|

対局」カテゴリの記事

コメント

 コメントにお返事頂き、有難うございました。感激です。
 最近、将棋連盟は対局場の選び方が凝っていますね。
 名人戦、竜王戦、今回の女流王位戦も素敵な風景です。

投稿: 五平餅 | 2009年10月29日 (木) 20時41分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/545452/46594613

この記事へのトラックバック一覧です: タイトル戦の立会人は重要な職務だが、退屈になるほど平穏なのが望ましい:

» ケノーベルからリンクのご案内(2009/10/30 09:10) [ケノーベル エージェント]
飯塚市エージェント:貴殿の記事ダイジェストをGoogle Earth(TM)とGoogle Map(TM)のエージェントに掲載いたしました。訪問をお待ちしています。 [続きを読む]

受信: 2009年10月30日 (金) 09時10分