将棋棋士 田丸昇の と金 横歩き

2016年10月26日 (水)

田丸が45年間にわたる現役棋士を引退、その後の電子機器不正使用問題

私こと田丸昇九段は10月25日に竜王戦・6組昇級者決定戦の対局で門倉啓太四段に敗れました。その結果、フリークラス規定によって引退が正式に決定しました。

45年間にわたる現役棋士生活を振り返ると、いろいろなことが思い出されますが、心残りはまったくありません。1965年(昭和40年)の14歳のときにアマ二段の棋力しかないのに師匠の故・佐瀬勇次名誉九段の口利きで奨励会に「裏口入会」した私としては、72年に21歳で四段に昇段して棋士となり、92年に41歳でA級に昇級できたことだけで、十分な実績を挙げたと満足しています。棋士人生の前半は勝負運に割りと恵まれ、順位戦で上位クラスに長く在籍できました。後半は坂道を転げるようにクラスが落ちていきましたが、負けが込んだ時期が前半でなくて良かったです。

門倉四段との対局で、私(後手番)は中飛車に対して以前に公式戦で指した△1三角と端に出る作戦を用いました。序盤は少し作戦負けでしたが、中盤で玉側の金銀4枚の厚みを生かして反撃し、終盤で一手違いの寄せ合いに持ち込みました。しかし駒損したうえに、飛車の働き、と金の活躍で相手が勝り、最後はどうしても負け筋でした。「華々しく散りたい」と対局前から思っていたとおりの局面になって投了しました。

私が竜王戦で門倉四段に勝った場合、11月上旬に5組昇級をかけて竹内雄悟四段との対局が決まっていました。現役最後となるその対局では、私が後援者から贈られた和服を着て臨んだ棋士デビュー対局(1972年3月21日・新人王戦・河口俊彦四段戦)と同じように、その和服を着て臨むつもりでした。それが実現しなかったのはちょっと残念です。

今後は、自分の持ち味を生かした棋士人生を送りたいと思っています。

メディアの報道でご承知のように、三浦弘行九段が対局中に電子機器を不正使用して将棋ソフトを検索したなどの疑惑によって、将棋連盟の常務会は三浦九段に対して、竜王戦の挑戦権の剥奪と今年12月末日までの公式戦出場停止の処分を課しました。

しかし常務会が重大な問題をわずか1日で決定、三浦九段と常務会の見解で違う事実関係、三浦九段が疑惑を否定、三浦九段の口頭による休場届の正当性、告発した棋士たちが挙げた三浦九段の指し手と将棋ソフトとの一致率の合理性など、いろいろな問題点が浮上しています。

10月21日に東西の将棋会館で行われたこの問題に関する説明会(棋士、女流棋士を合わせて約140人が出席)で、常務会は一連の経過と深刻な事情を棋士たちに伝えました。私は詳しいことを書きませんが、このブログに寄せられたコメントの内容でわかるように、すでに周知のことになっています。説明会では、三浦九段を批判する声と同情的な声に分かれましたが、私の実感では後者のほうが多かったと思います。

今後は、さらなる真相の究明が望まれます。ただ訴訟に発展する可能性もあり、どのような結果になっても、将棋界と棋士の信用失墜はまぬがれません。三浦九段、常務会、棋士たち、棋戦主催者などを巻き込んだ将棋に例えると、誰も「勝ち目がない」という厳しい状況なのです。

最年少四段昇段記録(14歳2ヵ月)で藤井聡太新四段の誕生、『聖の青春』『3月のライオン』の映画化など、将棋界は今年から来年にかけて明るい話題で持ち切りになるはずでしたが、ぶち壊しになってしまいました。

米長邦雄永世棋聖が69歳で亡くなったのは4年前の2012年12月。連盟会長時代に数々の難題に凄腕を振るった米長がもし存命だったら、将棋界の存続に関わる今回の問題に際して、どのように対処しただろうかと、私はふと思ってしまいました。

多くのメディアは、三浦九段に不正行為があったという前提の論調で報じています。私は知り合いの編集者から取材を受け、10月25日に発売された『週刊!スパ』(11月1日号)の誌上で、三浦九段を擁護する立場で一連の問題について語りました。

この問題はまだ尾を引きそうです。何らかの形で収束することを願ってやみません。

【追記】10月下旬に発売された『別冊宝島』(2518号)では、「将棋名勝負伝説」という表題で将棋界と棋士のことを豊富な写真と記事で紹介しています。トップ棋士インタビュー、将棋と人工知能、村山聖九段の肖像、元奨励会三段・天野貴元の最後の棋譜、などが主なテーマです。私は「棋士たちの引退」「棋士の反則列伝」のテーマで書きました。※定価は1200円(税別)。

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2016 10 26 18 26 04 | | コメント (33) | トラックバック (2)

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